<中小企業NEWS>
この記事の内容
・ネット決済やクラウド導入で先生の負担軽減 ・週30時間正社員制度で先生を安定的に戦力化 ・業績拡大に成功 海外展開も実現
「生徒は5年で倍増した」と沼田社長
全国でトップクラスの教室数を誇るそろばん塾を運営するイシドの売り上げは、計算器具の発達や少子化の影響でそろばん人口が減少する中でも近年右肩上がりを続けている。「先生の事務負担をITで大幅に軽減し、さらに週30時間勤務の正社員制度を導入した相乗効果は大きい」と自己分析する沼田紀代美社長が、同社の生産性向上策を明かした。
沼田氏は、地元北海道で幼児教育に携わったが結婚を機に千葉県へ転居。専業主婦となっていた時にイシドの折込チラシが目にとまる。同社は電卓の隆盛でそろばん塾が激減していた1973年3月、そろばんを能力開発教具として活用し、社会に貢献する人材を育成しようと現会長の石戸謙一氏が千葉県白井市で開業したそろばん塾「石戸珠算学園」を起源とする。
指導者を育成する独自カリキュラムも備えていた同社に、沼田氏が自身の幼児教育のキャリア伸長も期待できることから「そろばんの先生として」入社したのは99年。高い指導力を発揮しただけでなく、2000年には早くも業界初となるe‐ラーニングシステム「インターネットそろばん学校」の開発に携わった。
この功績が評価され、親族内事業承継は企業の発展に寄与しないと考える創業者石戸氏の60歳で引退したいとの希望を実現する形で11年、2代目社長に就任した。「インターネットそろばん学校」は2度更新している。ネット決済を導入し、受講申し込みから学習開始までの手続きを自動化することで人手を介して処理していた作業を半減したと同時に、生徒が受講できるようになるまでの所要時間を大幅に短縮したという。
事務はクラウドで本部が管理
同社の特徴は生徒の理解力に応じた個別指導で能力を開発する「いしど式」にあるが、指導に当たるべき先生は事務処理に追われていた。沼田氏は、この状況を打開するため14年にクラウド型の生徒管理システムを独自開発。手書きやパソコンの表計算ソフトで行っていた生徒の出欠や珠算特有の段級位などに関する作業をすべてクラウドで一元管理し、運営事務を効率化した。「全国で200を超える加盟教室の事務関係数値を見える化したことにより、本部がリアルタイムで状況を確認し、品質管理と顧客満足の向上につなげられた」と振り返る。
そろばんと子育ての両方の経験を持つ40~50歳代の主婦を先生として長期的に戦力化するため導入した週30時間勤務の正社員制度も奏功している。パートタイマーにもスキルに応じた時給を設定していたため、配偶者扶養控除枠を超えないように勤務時間を制限する先生が多数いた。高スキルを活かすべきと思った沼田氏は週30時間勤務で社会保険に加入できるように雇用形態を見直し、扶養控除枠を利用するのと比べて不利益のない収入を得られる正社員の仕組みを考案した。
保護者が生徒紹介も
社会保険加入と収入増を実現し、家事をこなす時間も確保できる試みは、パートタイマーから正社員へのキャリアアップや先生としてのスキル向上を促進。生徒の満足度も上がり、保護者の高評価を得て新たな生徒紹介につながっている。これらの相乗効果で沼田氏が社長に就任した11年からの5年間に生徒は約2000人から、売り上げも2億3000万円からそれぞれ倍増したという。
同社は海外にも進出している。夫の歯科医療学習に付き添って来日していたグアテマラ人女性が帰国後に開校したケースやポーランドで小学校の元教員が開校したケースなど、同社を通じてそろばんの効果を知った人材の「普及に賭ける熱意に導かれ本部も支援し」海外市場を開拓している。
縮小を続けるそろばん市場を見据えた事業案も模索。右脳を開発する教具としての機能研究や、認知症の回復力を高めるプログラム開発など複数のプランを検討中だ。
「身体の健康を増進する研究やビジネスは進んでいるが、脳の健康に関する研究は未知の領域」
沼田氏は、そろばんの可能性追求に余念がない。
イシド
代表取締役:沼田紀代美氏
本社:千葉県白井市堀込1-1-12
電話:047-492-2388
設立:1973年3月
資本金:1500万円
従業員数:105人
事業概要:そろばん教育事業(直営教室「石戸珠算学園」運営・加盟教室への教育ノウハウ提供・「インターネットそろばん学校」販売など)
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