<中小企業NEWS>
この記事の内容
・観光地の大衆食堂が最新技術で大変身 ・データ駆使し客数や注文メニュー予測 ・画像解析システムで来店客の性別や年齢分析
新規開拓した商品群を紹介する小田島社長
伊勢神宮内宮参道のおはらい町に立地する大衆食堂「ゑびや」は1912年創業。手切りの食券とそろばんで商いをしてきたが、近年、めざましい進化を遂げている。店舗を改装しメニューを一新、土産物店を併設。機械学習で得たデータや画像解析技術を駆使して様々なオペレーションを導入。従業員一人あたりの年間売上高を396万円から1073万円に引き上げた。改革の旗手は昨年10月に昇格した小田島春樹社長(33歳)だ。
―的中率9割の来店予測―
東京の大学で知り合った妻の実家に入って事業をすると言ったら、周囲に大反対された。「地方?飲食店?絶対無理だよ、と。でも、みんながそこまで言うってことはチャンスだし、事業はゼロから立ち上げるより、ある程度基盤がある方が有利」と2012年3月、ゑびやの店長になった。
それから6年余り。始業後の朝礼で小田島社長は従業員に「今日は○人お客さんが来る。味噌汁は○杯、漬物は○皿必要です」などと伝えて準備を指示する。前日に来店人数や注文メニューの予測ができているからだ。客が100人来るなら100人分のコメを炊けばいい。「以前は日に6升炊いて余らせていたが、いまは2升」。1日4升分のコスト削減だ。
これらの予測は、天気予報や曜日、近隣の宿泊者数などのオープンデータに、グルメサイトのアクセス数や来店客の性別や年代などを従業員が目で確認して端末に入力して集めた自社データを組み合わせたもの。今年5月の来店総数は8903人で事前の予測数値は9322人だったから、来店予測の的中率は約96%。年間平均は90%以上という高確率だ。
予測は1時間単位。来店客数に応じて厨房やフロアの人員を最適化する。午前中に「牛丼」の注文が多い予測日なら、食堂前の立看板を「牛丼」に変える。
「観光地の客にとって一番重要なのは時間」だから、店内160席の客は卓上のオーダー端末で注文を入力する。「お茶や料理を運ぶのに接客スタッフは厨房とテーブルを計6回、行き来していたが、端末入力なら2回で済む」。
従業員の負担が減るし、注文内容を予測しているので調理時間も短い。客の待ち時間は10分から15分。料理が早く出てくれば客の満足度は高いし、回転率も上がる。食堂の営業は昼だけだが利益は出る。
―画像解析で物販増―
隣接する土産物店は、入口に設置した画像解析システムで来店客の年代や性別が分かる。30~40代の女性客が多いので「伊勢えびだし」や「落雁」など彼女らに合わせた商品を開発して並べたら今年1月の売上げは前年比2倍に伸びた。
レジのPOS(販売時点情報管理システム)は8対2で女性の購買が多いことを示していたが、実際に店に入ってきた客は6対4で男性も少なくない。店頭に男性向け商品を揃えたら購買率が7対3に変化して全体の売り上げも約2割上がった。
従業員はパート・アルバイトで計46人。仕事は午前9時から午後5時45分で残業はほぼない。完全週休2日制で有給休暇とは別に2週間の特別休暇が取れる。1人当たりの作業量を減らして空き時間を捻出し、サービスの提供だけでなく商品開発など新たな業務へのジョブチェンジも試みる。「人は資源。人手不足で人が採れないなら育てればいい」と明快だ。
現場に落ちていた様々な課題を解決するために最新のテクノロジーを使って小さな工夫を積み重ねてきた。飲食や小売に加え、卸売、商品開発に製造企画、EC(電子商取引)と業容は拡大を続けている。「観光地マーケットは災害などのリスクがある。同程度のビジネスを起こして全国規模で万が一に備えたい」と先を見る。
いま注力しているのは自社の成功モデルを外部に提供する情報系販売だ。今年6月に新たに立ち上げた関連会社「EBILAB」で飲食店用プラットフォームの提供や、画像解析などで取ったデータを読み解いて使える形に落とし込む支援を行う。「生産性向上は技術導入に加えて、業務のデザインが鍵になる。情報化に取り残された地方の中小零細の飲食・小売業に手を差し伸べたい。地方でもこれだけできると言いたいですね」
ゑびや
代表取締役
小田島 春樹氏
本社所在地
三重県伊勢市宇治今在家町13
電話
0596(24)3494
設立
1912年
従業員数
46人
事業内容
飲食・小売、卸売、商品開発、電子商取引など
#生産性
#データ活用で業務の効率化
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