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地域愛と技術力が生んだ、老舗被服メーカーの新事業


【八橋装院株式会社】


生産量が激減する国内縫製業界において、新事業へ果敢に挑戦する広島県「八橋装院」。雑貨と異素材を組み合わせた新事業「フクナリー」へ踏み出す決断のポイントは何だったのか。地元素材とコラボする斬新な商品はどのようにして生まれたのか。そして、立ちはだかるハードルをどのように乗り越えたのかを探った。


【この記事のポイント】

  1. 地域への恩返しの想いが地域ブランドの原点

  2. 新技術開発は「慣れるまでやる」。経験の蓄積で克服できる

  3. 新事業への舵を切るのは社長の決断



中小企業|経営者|成功事例

ミカサ製バレーボールの生地を使用したバッグパックを手にする、高橋伸英社長


新事業「フクナリー」の始まり

創業60年を迎える、八橋装院。先代から脈々と受け継がれてきた技術力で、国内の有名服飾メーカーの委託加工・OEMでは名の通っている企業である。国内縫製業界は高度経済成長期やバブル期など順調に成長してきたものの、1990年代以降、安価な輸入原料の増加や国内加工賃の高騰による工場海外移転により、徐々に国内生産量は減少し、国内メーカーの廃業が相次いでいる。同社も例外ではなく、業績が停滞。そこで2000年代中頃から本格的に新たな事業を模索し始めた。

まず目をつけたのが、これまで廃棄していた、製造過程で出てくる残布(ざんぷ)の有効活用である。捨てていたものから宝を生み出すことを目指すと同時に、高橋伸英社長にはある想いがあった。

「このままだと日本の縫製技術は廃れていく。職人の技を継承し、さらに向上させたい。」創業60年の縫製メーカーのプライドが原動力となったのだ。

手探りで始まった新事業「フクナリー」。事業の名前「フクナリー」は、もともと先代の創業者、高橋英臣氏による自社工場を表す造語である。あるとき、島根県出雲市にあるワイナリーを訪れた先代は、「なんとしてでもすばらしいワインをつくる」というワイン職人のものづくりスピリッツに感銘を受ける。そして、自身の洋服作りにかける情熱と重ね合わせ、「ワイナリー」をもじって、自社工場のことを「フクナリー」と表現したのだ。先代からものづくりの情熱を受け継いだ現社長は、当社を担う新事業名に「フクナリー」を取り入れた、という経緯がある。手始めに行ったのは、オーダーメイド服の縫製である。

ところがすぐに壁に突き当たる。服は季節感やトレンドが求められ、残布でそれらを追い続けるのは非常に困難であったためだ。そこで次に目をつけたのが、バッグや財布などの雑貨である。これまでの被服縫製で培われた技術、ファッション性が活かせる分野だと見込んだ。ところが、実際に始めてみると一つ想定外のことが起こっていた。残布だけでは足りなく、新たに生地を買うことの方が多いことに気づいたのだ。

通常なら雑貨もダメかと挫折するところだが、これまでの発想を大きく転換した。残布の活用ではなく、まったく新しい素材で商品開発することを決意した。ここで「雑貨×異素材」というフクナリーの方向性が見えてきた。


ベースになったのは郷土愛

生まれも育ちも広島の高橋社長は常々、故郷に何か恩返しができないかという思いを抱いていた。そのため、もし組むのなら地元の素材というのは自然の成り行きだった。地元広島の尾道帆布、金襴緞子「KUROGIN」を使った財布やカードケースを次々と開発。その中でもひときわ目を引くのは、バレーボールなどで有名な地元ボール・スポーツ用品メーカー「MIKASA」とのコラボ商品である。

きっかけは、八橋装院が出展していた展示会にたまたまMIKASA社も出展していたこと。MIKASAの素材をおもしろいと感じた高橋社長はその場ですぐ交渉し、トントン拍子で協働が決まった。一見ファッションとは縁遠いスポーツボールの素材だったが、手触りがよく、柔らかくて丈夫で、バッグの素材としても優れていた。コンセプトづくりは社内で喧々諤々の議論だったが、どんなシチュエーションにもマッチし、素材を徹底的に活かした商品を目指した結果、「単色でシンプルなデザイン」と決まった。

技術面でも困難が立ちはだかる。これまで様々な素材を扱ってきたが、スポーツボールという素材の扱いは初めてのこと。堅さや素材感には慣れなかった。試行錯誤の連続ののち、ようやく商品化に成功する。さらに平成26年度のものづくり補助金を活用し、CAM搭載自動裁断機、自動延反機、特殊ミシンを導入する。これにより、裁断時間が1/10以下に削減されるなどの効率化、デザイン力を活かした商品開発の省力化、作業の平準化による技術継承が実現した。量産体制が整った。高橋社長曰く、技術面のハードルを乗り越えたポイントは、「とにかく慣れること。経験は蓄積されていくから」。諦めずにやり続けることこそが解決の糸口だった。



中小企業|経営者|成功事例

スポーツボール素材を生かした「フクナリー」。ボール素材がもつ耐久性と軽さが魅力


順調に販売を伸ばしている「フクナリー」ではあるが、同社の売上比率ではまだ既存事業の方が高く、「フクナリー」は10年目を迎えてようやく黒字化してきたとのこと。

「新事業へ踏み出すのは社長の決断でしかない。迷いはなかったですね。市場が縮小する中で、解決策を求め続けることと、社内には理解を求めました。あとは社長自身が動くことですね。」

そう語る高橋社長は、さらなるブランド強化に向けて、販路戦略を練り込んでいる。本社に併設された自社店舗とネット販売に加え、今年4月には広島の大型商業施設に出店。「フクナリー」ブランドを冠にし、委託ではなく直売戦略を取っている。ネット販売だけでなく、実際に商品を手に取れる場所を重視し、今後広島以外のエリアへの直営店拡大を目論む。「フクナリー」は、『中小企業のブランドづくり』のモデルケースとしても注目を集めている。


《企業プロフィール》


会社名

代表者名 代表取締役 高橋 伸英

設立年 1961年4月6日

所在地 広島県広島市安佐南区西原1-27-10

資本金 3,200万円

従業員数 33名(うちパートアルバイト15名)


《中小企業診断士からのコメント》


外部環境の変化が著しい中、企業を存続させるために、新規事業を模索したり、事業転換したりする必要性を実感している事業者も多い。八橋装院は、その成功事例ではあるが、試行錯誤を続け、黒字化までに10年を要している。10年の中にも、成功と失敗の繰り返しがあり、そのたびごとに経営者の苦悩があったことは想像に難くない。

「迷いはない、解決策を求め続ける」。高橋社長の言葉通り、経営者が腹を括り、率先垂範で動くことが、特に中小企業の新規事業成功には欠かせないことを教えてくれる事例である。 大島季子


【関連施策情報】


【概要】 国際的な経済社会情勢の変化に対応し、足腰の強い経済を構築するため、生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行う中小企業・小規模事業者の設備投資等を支援します。 【支援内容等】 <複数の中小企業・小規模事業者が、事業者間でデータ・情報を共有し、連携体全体として新たな付加価値の創造や生産性の向上を図るプロジェクトを支援>

  • ■補助金額 企業間データ活用型:1,000万円/者(連携体は10者まで。さらに200万円×連携体参加数を上限額に連携体内で配分可)

  • ■補助率 2/3以内

<中小企業・小規模事業者が行う革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善に必要な設備投資等を支援>

  • ■補助金額 一般型:1,000万円、小規模型:500万円

  • ■補助率 2/3以内・1/2以内(※)


  • ※一般型は上限額1,000万円で、生産性向上特別措置法に基づく先端設備等導入計画の認定または経営革新計画の承認を取得して一定の要件を満たす者は、補助率2/3。それ以外の事業は補助率1/2。

  • ※小規模型は上限額500万円(設備投資を伴わない試作開発等も支援)。小規模事業者は補助率2/3、その他事業者は補助率1/2。

  • ※全類型共通 生産性向上に資する専門家を活用する場合 補助上限額30万円アップ

<利用方法>

  1. 各都道府県の地域事務局に、公募期間中に申請書を提出

  2. 外部有識者で構成される審査委員会において提案内容が審査され、採択先が決定

  3. 各都道府県の地域事務局から補助金の交付決定通知後、試作品・新サービス開発、設備投資等を実施し、終了後、成果を報告

  4. 地域事務局による検査後、全国事務局から補助金を受給

  5. 事業終了後5年間の成果を毎年報告

【対象者・要件】 認定支援機関の全面バックアップを得た事業を行う中小企業・小規模事業者であり、以下の要件のいずれかに取り組むものであること。 「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」で示された方法で行う革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善であり、3~5年で、「付加価値額」年率3%および「経常利益」年率1%の向上を達成できる計画であること。 または「中小ものづくり高度化法」に基づく特定ものづくり基盤技術を活用した革新的な試作品開発・生産プロセスの改善であり、3~5年で、「付加価値額」年率3%および「経常利益」年率1%の向上を達成できる計画であること。 <問い合わせ先>

  • 公募開始:平成30年8月3日(金)

  • 締切:平成30年9月10日(月)〔当日消印有効〕

  • ※電子申請は平成30年8月28日(火)から平成30年9月11日(火)15:00まで。



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