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新しい事業承継のカタチ「ベンチャー型事業承継」とは?

更新日:2018年8月28日

〈ミラサポ〉


近年になって「ベンチャー型事業承継」という言葉が聞かれるようになりました。これは、親族内の事業承継において、若手後継者が家業の経営資源を活かして経営革新に取り組むことです。中小企業庁の「事業承継5ヶ年計画」にもその言葉が取り上げられるなど、徐々にその認知度は広がっています。 今回は、これから事業承継を控える全国の若手後継者の皆さまに向けて、ベンチャー型事業承継の概要、先進的な取組事例および国の支援内容を紹介します。 ※本記事は、2018年7月18日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。


事業承継を経営革新のチャンスとする



ベンチャー型事業承継|中小企業

中小企業庁の「事業承継5カ年計画」によると、今後5年間で30万以上の経営者が70歳になるにも関わらず6割が後継者未定であり、70代の経営者でも承継準備を行っている経営者は半数という現状が示されました。我が国企業の9割を占める中小企業の高齢化問題は、深刻化しています。 このような中、地域の事業を次世代にしっかりと引き継ぐとともに、事業承継を契機として後継者が積極的にチャレンジしやすい環境を整備することが求められています。

中小企業の後継者問題の解決手段として新たに注目されているのが、「ベンチャー型事業承継」と呼ばれる事業承継の形態です。これは、若手後継者が家業の経営資源を活かし、新規事業、業態転換、新市場開拓など、新たな領域へ挑戦することを指します。ゼロから起業するベンチャーでもなければ、親と同じ商売をする単なる親族内承継でもない、新たなジャンルと言えます。 この言葉を広める「伝道師」の活動をしているのが、公益財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営する起業支援施設、大阪イノベーションハブのチーフプロデューサーを務める山野千枝さんです。山野さんは、2000年から同センターでベンチャーや事業承継の支援などに携わってきました。そこで培った広い人脈や経験を活かし、自らも2016年に起業しています。 ベンチャー型事業承継とはどのようなものか、山野さんに伺いました。


自分がやりたいビジネスに「家業を寄せる」


ベンチャー型事業承継|中小企業

この言葉を使い始めた背景は、若手後継者が自らの未来に希望を持てるよう、「家業の経営資源を活用して新しいビジネスを始めることも、ベンチャーの1つである」ということを若い世代に伝えるためです。 今は起業のハードルが低くなり、メディアなどでは成功するベンチャー企業が数多く取り上げられます。一方で、「事業承継」と聞いて思い浮かべるイメージは相続や税金の問題ばかりで、華々しいものではありません。そこで、若手後継者の家業への見方を変えたいと思ったのです。

ベンチャー型事業承継という言葉は、2014年頃、ある自動車部品メーカーの3代目社長が自らを指してそう言っていました。後継者でありながらベンチャー色の強い事業を展開している方だったので、起業家同士の集まりや、中小企業の後継者同士の集まりのどちらに参加しても違和感が拭えず、生み出した言葉だそうです。

支援のターゲットとする「若手後継者」とは、「30代前半までの後継者」を指しています。それを超える年代の人を制限するわけではありませんが、「若手」にターゲットを絞るのは、多くのベンチャー型事業承継の成功事例において、最初の挑戦を始めたのは20代の頃だったと言われるからです。一般に、20代は体力や行動力に溢れていて、その挑戦は周囲の応援を得やすいものです。また、先代経営者が現役で、ベンチャーへの理解が深い世代でもあり、もし失敗しても許せる範囲で挑戦できる土壌を備えていると言えます。これがもし、40代、50代になって事業承継した場合であったら、失敗を恐れて新規事業に手を出すことなどできないでしょう。

新たな取組と言っても、必ずしも取り扱うアイテムなどを変える必要はありません。現在の家業を大きくしたり、隣接する業界に参入したりする、という方法でもよいのです。 小規模・零細の企業では、M&A(合併と買収)や第三者承継という事業承継の方法では、買い手を見つけるのが難しいところがあります。家業の中で新たな取り組みができるのであれば、それに越したことはありません。 若手後継者が新たな取組を行うに当たっては、自分がやりたいビジネスに「家業を寄せていく」ことが重要なのです。


国としてのベンチャー型事業承継推進の取り組み支援


ベンチャー型事業承継という言葉が全国で注目され始めたのは、近畿経済産業局が2017年2月に、関西のベンチャー支援の取組指針となるアクションプランを策定したことがきっかけです。そのアクションプランにおいて、全国で初めてベンチャー政策に「後継者」を対象としたことで、注目が集まりました。山野さんが所属する大阪市都市型産業振興センターが、アクションプラン実現に向けたプロジェクトの運営事務局となり、ベンチャー型事業承継の推進に向け、一体となった取組を進めています。

同プロジェクトを推進する、近畿経済産業局産業部創業・経営支援課の森門明日香創業支援係長に、同局の取組について伺いました。


地域こそベンチャー型事業承継に取り組む意義がある

ベンチャー型事業承継|中小企業

近畿経済産業局では、先代からの経営基盤を引き継ぎつつ、新たなイノベーションを創出する後継者を「ベンチャー型事業承継」と定義しました。2016年度に有識者などを交えて策定したアクションプランに基づき、2017年度からアクションプランの実現に向け、ベンチャー型事業承継の普及に向けた取組を実施しています。

ベンチャーが発生する数は、東京一極集中の傾向が強く、地域においてゼロからのベンチャーは生まれにくいと言われています。しかし、「1を10にする」というベンチャー型事業承継であれば、地域でも生まれる可能性が高いと考えています。地域の若手は東京に行きたがる傾向にありますが、地域資源、特に家業を持つ人に「あなたもベンチャーである」と告げることで、人材流出を防ぐことができ、それが新ビジネス創出にもつながるのです。

近畿経済産業局によるベンチャー型事業承継に関する取組は、基幹イベントを開催するなどの仕掛けを行うことで、後継者と支援者などの機運醸成、特に後継者のマインドセットを図ることを目的としています。 取組を開始した2017年度は、ベンチャー型事業承継の好事例を発信するポータルサイトを開設しました。また、経営者や後継者、支援機関を対象とした啓発イベントと、後継者候補を対象とした新ビジネスを考えるワークショップを、大阪市で開催しました。いずれも幅広い業種の若手後継者などが参加し、熱意ある意見が多く聞かれるイベントとなりました。 2018年2月には、1年間の振り返りとしてカンファレンスを開催しました。ベンチャーキャピタルの方による講演や、ワークショップに参加した若手後継者による成果報告を行いました。いずれのイベントも、山野さんら運営事務局と一体となって開催しました。


多様なロールモデルを発信する


ベンチャー型事業承継|中小企業

2018年度の近畿経済産業局による取組は、2府5県の関西全域に活動を広げていきたいと考えています。地域ごとにキーマンが出てきて、広範な地域で同時多発的に取組が起きることを期待しています。そのため、啓発イベントも大阪以外を中心に開催する予定としています。 ワークショップは、前年度同様にアクセスの良い大阪で開催しますが、啓発イベントをきっかけとした各地域からの参加も募ります。

これまでは30代前半までの若手後継者を主な支援対象としてきましたが、各地域における多様なロールモデル(手本)を発信するため、40代中盤の人などによる成功した事例も積極的に取り上げていきたいと考えています。 情報発信は、ポータルサイトに掲載する他、若手後継者の目に留まりやすいSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も積極的に活用していきます。イベント開催のお知らせも順次、これらに掲載するのでぜひご覧ください。


まずは近畿管内でモデル事例を数多く作り、いずれ全国にもこの動きを広げていきたいと考えています。そのためには、支援機関や民間企業などに賛同者を増やし、連動した取組につなげていくことが重要です。実際に、福井、京都、兵庫などの支援機関が主催となり、当局の取組と連携した形でイベントを開催する動きも出始めています。 近畿経済産業局のこのような取組は、中小企業庁も関心を持っており、事業承継5ヶ年計画にベンチャー型事業承継という言葉が盛り込まれたり、「平成29年度補正事業承継補助金」に事業承継を契機として経営革新などに取り組む方を支援する「後継者承継支援型」が追加されたりと、国の施策にも反映されるようになりました。


後継者もベンチャーであることに気づいてほしい


ベンチャー型事業承継|中小企業

若手後継者の皆さまには、家業を継ぐことは決してネガティブなことでなく、新たな取組の可能性があるということを知ってもらいたいです。 実際に、ゼロから起業する場合でも、他に家業を持っていて、幼い頃から見てきた親の影響を受けて起業する方が多いと聞きます。家業を持つ方は、経営者としてのアドバンテージを元々持っているということです。家業は資源であり、「後継者こそベンチャー」であると気づいてほしいと思います。

ベンチャー型事業承継は、これまで国の「ベンチャー支援」と「事業承継支援」との間にあって、日が当たらなかった部分と言えますが、実は当てはまるケースが非常に多い形態です。 家業を継いで新たなイノベーションを起こそうとすると、親や既存の従業員とのしがらみにより、社内から抵抗があるかもしれません。そのとき一緒に支え合う仲間が必要になることでしょう。私たちはそのための支援が必要だと考えています。 事業承継を契機に経営革新などに取り組もうとする企業の皆さまは、当局ポータルサイトに掲載のベンチャー型事業承継関連の各種イベントに参加いただくか、最寄のよろず支援拠点などの支援機関への相談をお勧めします。



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